
「MAKU.(マク)」のこだわり|旗屋の職人が生み出した、道具としてのワークエプロン
「これは衣類ではなく、道具です。」
70年以上にわたり、暖簾・幕・旗を作り続けてきた職人が、エプロンを作ることを決めた理由——それはものを売ることではなく、日本の風景を残すことでした。
暖簾がかかった店先、幕が揺れる祭りの境内。そういった光景が、都市の中から少しずつ姿を消しています。「かっこいい文化だからこそ、形を変えてでも残していきたい」。その思いが、「MAKU.(マク)」と名付けられたワークエプロンに結実しました。
本記事では、MAKU.の誕生背景から素材・技法・設計思想・経年変化まで、開発者である加藤 剛史が自らの言葉でお伝えします。
- MAKU.が「衣類」ではなく「道具」と定義される理由
- 十番天竺という素材が選ばれた必然性
- 引き染め・裏勝りという伝統美の込め方
- 幕と暖簾の形から生まれた機能美
- 使い込むことで育つ経年変化の楽しみ方
「MAKU.(マク)」とは?旗屋の技術から生まれた道具
MAKU.は、株式会社 加藤健旗店(kiten. kyoto)が手がけるワークエプロンです。
伝統的な旗・暖簾・幕・法被を専門に作り続けてきた旗屋の技術——「十番天竺(とうばんてんじく)」という生地、「引き染め(ひきぞめ)」という染め技法、そして幕や暖簾から着想したフォルム——がそのまま一枚の「道具」に込められています。
なぜ「衣類」ではなく「道具」なのか
MAKU.を語るとき、私たちはあえて「衣類」という言葉を使いません。
道具にこだわりを持つ人がいます。料理人が包丁に、大工が鑿(のみ)に、陶芸家が轆轤(ろくろ)にこだわるように——作業を共にする道具には、その人の仕事観や美意識が反映されます。MAKU.はそのような「道具へのこだわり」に、伝統の技術と文化を重ね合わせて応えるために作られました。機能的であることはもちろん、手に取るたびに伝統やストーリーを感じられる。使えば使うほど愛着が増す。それが「道具」としての目指す姿です。
暖簾・幕の文化を未来へ:MAKU. 誕生の背景
暖簾や幕は、日本の日常風景に深く根ざしてきたものです。
しかし現代の生活において、それらを身近に感じる機会は少なくなっています。需要の減少とともに同業の職人が廃業し、技術の継承が難しくなっている現実もあります。「かっこいい文化だからこそ、作り続けてその風景を残していきたい」——その思いがMAKU.の出発点でした。
普通に生活していると暖簾や幕のことを知る機会はほとんどありません。だからこそ、その素材と技術を使って現代に使えるアイテムを作ることが必要だと考えました。着る人が日々使う中で「これはどんな素材なのか」「どうやって作られているのか」と興味を持ち、暖簾・幕という文化に触れてもらえる——MAKU.はそのための入口でもあります。
素材の必然性:十番天竺という選択
MAKU.に使われる生地は「十番天竺(とうばんてんじく)」です。
化学繊維ではなく、天然の木綿を選んだ理由には、明確な必然性があります。
経年変化という価値
化学繊維は洗濯を繰り返しても形状を保ちますが、使っていくうちの「変化」はほとんどありません。
十番天竺は違います。洗うたびに少しずつ生地が柔らかくなり、使い込むほど体に馴染んでいきます。色も徐々に変化し、その人だけの風合いが生まれてくる。「劣化」ではなく「育ち」と呼べる変化です。永く使い続けることを前提とした、最初の選択がここにあります。
耐熱性という実用性
木綿素材には、化学繊維にはない耐熱性があります。
アウトドアで焚き火をする際、化学繊維のエプロンは火の粉で穴が開いてしまいます。木綿であれば、その心配が大幅に減ります。キャンプや陶芸、溶接など、熱や火を扱う作業シーンでも安心して使えるのは、天然素材ならではの利点です。
法被で培った確信
十番天竺は、法被(はっぴ)にも長年使われてきた生地です。
身につけて動くことを前提とした法被に適している——その事実は、長年の製造経験が証明しています。しっかりした厚みがありながら重くなく、雨風に耐え、洗濯にも強い。エプロンとして使うにあたり、最も使い勝手の良い生地であるという確信がありました。
職人の手仕事が宿る色と美意識
MAKU.の色は、機械印刷ではなく「引き染め(ひきぞめ)」によって施されます。

引き染めが生む、深みのある色
引き染めとは、刷毛で生地に染料を染み込ませる伝統的な染め技法です。
職人が何度も刷毛を走らせることで、色が少しずつ重なり、深みが生まれます。一度で均一に色をつけるプリントとは異なり、ムラや濃淡が微妙に混ざり合うのが引き染めの特徴です。その「揺らぎ」こそが手仕事の証であり、量産品では出せない表情を生み出します。
裏勝り(うらまさり)という日本の美意識
MAKU.には「裏勝り」という考え方が込められています。
裏勝りとは、表よりも裏に本当の見せ場を持ってくる日本の美意識です。インスピレーションは、江戸時代の火消し半纏にあります。火消しは半纏の裏側にインパクトのある絵を描き、火事場の仕事を終えた後に半纏を裏返して帰ったと言われています。
「本当に見せたいものを裏に持ってくる」——その粋な文化が、MAKU.の裾の裏側に息づいています。刷毛の跡(かすり)とロゴが裾の内側に忍ばせてあり、日常使いの中でふとした瞬間に気づく仕掛けです。火消し半纏を作り続けてきた職人だからこそ体に染み込んでいる美意識が、ここに宿っています。

幕の美学を機能に変える:絞り・スリット・ポケットの設計思想
MAKU.のフォルムには、暖簾と幕のデザインが機能として落とし込まれています。
幕の「絞り」から生まれたシルエット調整

社寺や玄関で張られる幕は、中央を房で引き上げた形が特徴的です。
その「絞り」の発想をエプロンの裾に応用したのがMAKU.の特徴のひとつです。裾の形状を変えることで丈やシルエットを調整でき、使う人の体格や好みに合わせた着こなしが可能になります。機能的でありながら、他にはないデザイン性を持たせることができた部分です。
暖簾のような深めのスリット
暖簾が人の動きを妨げないのは、布が分かれているからです。
その発想から生まれたのが、MAKU.の深めのスリットです。歩くときに裾が足に絡まらず、しゃがんでも生地が突っ張りません。陶芸やDIYなど、足を大きく開いて作業するシーンでも動きを制限しない設計です。服を汚れから守りながら、動きの自由を損なわない——その両立がスリットによって実現されています。
縦ラインを意識したポケット配置
MAKU.のデザインには、一貫して縦のラインが意識されています。
暖簾の垂れが縦の流れを持つように、MAKU.のシルエットも縦を強調します。ポケットはその縦ラインを崩さない位置に、かつ実際に手が届きやすい高さに配置されています。道具を入れやすく、取り出しやすく、見た目にも美しい——細部まで機能と美観を両立する姿勢が貫かれています。
使い込むほど、深くなる:MAKU. の経年変化
MAKU.は、使うほどに育つ道具です。
引き染めの色は洗濯を繰り返すうちに少しずつ退色し、独特の枯れた表情になります。十番天竺の生地は洗うたびに柔らかさを増し、最初は少し硬く感じた生地が、やがて体の動きにしなやかに追従するようになります。
化学繊維の「変わらない丈夫さ」とは異なる、天然繊維だからこその「変化の美しさ」。使った人の時間と習慣が染み込んでいく感覚——それがMAKU.を手放せなくなる理由のひとつです。
伝統の技術を、現代の道具として
暖簾や幕を作ってきた職人の技術と素材が、エプロンという形で日常に溶け込む。
MAKU.はそのための道具です。長く使い続けることで自分だけの一枚になっていく——そのプロセスそのものを楽しんでほしいと考えています。
職人の手で染められた生地が、あなたの仕事や趣味の傍らにある。その時間が、暖簾・幕という文化とあなたをつなぐ橋になります。
ぜひ、あなたの日々の手仕事や趣味の時間に、この特別な一枚を取り入れてみてください。
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